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イオン化放射線と健康 いま誰もが知っておくべきこと

イオン化放射線と健康 いま誰もが知っておくべきこと

O.I. ティムチェンコ  A.N.マルゼーイェフ衛生・ 医学生態学研究所、ウクライナ国立医学アカデミー

遠い日本に住む、親愛なる読者の皆様へ!

2011年に発生した大惨事の被害を受けられた方々に、心からのお見舞いを申し上げます。私は、私自身が本や映像を通して学んだ日本の方々特有の不屈の精神、勤勉さ、そして組織力が、今の状況を乗り越える原動力となることを心から願っています。また、皆様のそのお力が、今後何百年にも及ぶ時代を生き抜く礎となることを信じています。

心からの敬意を表して, 筆者

1.序文

初めに短く自己紹介をさせて下さい。私は第二次世界大戦中にウクライナ南部のザポリージャ州で生まれました。当時母は医学研究所の学生で、父は農学者として働いていましたので、私は母の両親に育てられました。祖父母は二人ともロシア語の教師でした。私は高校卒業後に2年間はたらき、それから医学研究所で高等教育を受けました。臨床医学セラピーを専攻して1969年に卒業しました。現在はウクライナ医学アカデミー・衛生・ 医学生態学研究所に在籍しており、この研究所に勤めて今年で35年目になります。1981年に放射線生物学修士号を、1992年には遺伝学と衛生学の博士号を取得しました。多様な分野の知識を結合することによって、人は広い視野と包括的な学問的・実践的能力を習得できると私は考えています。  1992年以降、同研究所内にある遺伝・疫学実験室室長を務めています。私たちの実験室では、ウクライナ国民の遺伝子の研究をしています。具体的には、遺伝子による健康への影響、新生児に見られる先天的な病気の発症率、また遺伝子異常によって起きる生殖機能障害の予防が、研究テーマです。私たち研究チームの研究結果は19の著作(モノグラフ)として紹介されており、そのうちの14は『遺伝子プールと健康』シリーズとして知られています〔註:遺伝子プールとは、交配可能な遺伝子を持つ種全体の遺伝子を指します。訳者〕。1992年以降、私たちの遺伝・疫学実験室では16人が修士号を、7人が博士号を取得しています。

2.チェルノブイリの時代:キエフ住人の観点

1986年まで、ソ連であのように大規模な原子力発電所の事故が起こり得るとは、誰も想像すらしていませんでした。が起きても、テーチャ川流域で起きた放射能汚染(1948年)やウラルの核惨事(1957年)に関する情報は当局によって隠蔽されました。したがって、その後も原子力は安全だと信じられていたのです。  1986年4月26日の午後、私が勤務していた研究所の所長から同僚達に、チェルノブイリ原子力発電所で事故が発生した、との通知が届きました。しかしその通知は、「原子炉は破壊されたが、状況は制御可能である。また、キエフの住民にとっては幸いなことに、放射能雲は北方へ向かった」というものでした。その時私は、「原子炉は破壊されたが、状況は制御可能である」、という言葉に注目し、違和感を覚えました。そして数時間後には、この情報は真実ではない、そんなことはあり得ない、何か行動を起こさなくてはならない、と思ったのです。  当時、私の娘夫婦はクリミア半島(ウクライナ南部)を旅行中でした。しかし私の弟には、4歳と7歳の子供がいました。私は直ちに弟に連絡を取りました。そして私の甥とその親友の合わせて4人を、翌日までにザポリージャ州に住む私の両親のもとへ避難させました。この子達は放射性ヨウ素に被曝せずに済みました。私は職場でヨウ化カリウムを見つけたので、すぐさま研究所の同僚達や親戚に分け与えました。しかし、ウクライナの諺にあるように、人は隣人の言葉には耳を貸さないものです。私の親戚の数人は、ヨウ化カリウムの摂取を拒否しました。彼等は、私が根拠もなく不安をあおっていると考えたのです。彼等は多くのウクライナ人と同様に、ラジオやテレビの報道を頼り、ドニエプル河畔で休日を過ごす子供達の映像を観て、危険なことなど何も起きていないと信じていました。またしても、必要な情報が人々に提供されなかったのです。あるいは私の親戚と同様に、当局も完全には状況の深刻さを把握していなかったのかも知れません。  その後、キエフに住む子供達の避難が始まりました。すると今度は、今まで状況を楽観視していた人々が態度を一変させて、子供を連れて街中を歩く母親を非難の目で見るようになったのです。人々は、母親が親としての使命を果たさず、子供を危険から保護していないと言って責めました。  除染のために、道路は頻繁に洗浄されました。私も除染のために自分のマンションを掃除しました。当時、首都キエフへは、ウクライナ南部から汚染されていない野菜が供給されていると言われていました。

事故が起きてから長い時間が経過しました。しかし私の中では、チェルノブイリ以外の数々の事故に関しても、当局が提供する情報への疑惑が消えたことはありません。またその後、ウクライナで起きた体制転換や経済の崩壊といった出来事に際しても、私の疑惑は強まるばかりでした。人々に危険が生じた時、当局は権力者の方針を優先させ、民衆の意思を考慮せずに判断を下すものです。

以上の経験は私に次の事を教えてくれました。すなわち、人は自分が必要とする情報を、多数の異なる情報源から入手するべきです。権力の支配を受けない、独立した立場の専門家に相談しなければなりません。そうした手順を踏んで、自ら判断を下すのです。

3.人体へ影響を及ぼす源泉としてのイオン化放射線

国際連合総会決議(1979年)は、全人類の活動における合目的性と有効性に共通する唯一の基準は人々の「健康」であると宣言しています。また、1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットでは、国連加盟各国の代表ほぼ全員の賛同を得て、アジェンダ21が採択されました。同アジェンダは、現代人およびその子孫は、誰もが経済的・健康的に満足のゆく生活環境の中で、自然との調和を保ちながら創造的な人生を歩む権利があると明言しています。

自然環境による影響は、人体の形成と健康に影響を形成及ぼす重要な要因の一つです。「人体の健康」には、もちろん生殖組織の健康も含まれます。自然環境の中で、電磁波(電磁場)場は特異な地位を占めています。世界保健機関(WHO )の報告によると、人間の生活環境における電磁波場のレベルは、自然界の平均レベルよりも高いとされています(1984年)。そして放射能汚染事故が起きた現在、生物、および生物を構成する細胞も電磁波放出射源であると見なせば、私たちが置かれている電磁波環境全体が、人体や他の生物の有機的な機能を阻害する「障害物」であると考えられるのです。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR )の定義によると、「イオン化放射線」や「イオン化粒子」とは、原子や分子の中に存在する、電子をはじき出したり励起する電磁波や粒子を電離放射線性質のものを指します。この作用をイオン化と呼びます。〔本稿では、多くの場合“電離”をはぶいて、単に放射線としました励起とは、外部からの刺激によって、原子や分子が、安定した状態から不安定な状態へ移る事を言います。訳者〕  電離放射線イオン化放射は2種類に分けられます。一つは電磁波状のもので、エックス線とガンマ線がこれに属します。もう一つは粒子状のもので、それにはベータ粒子(電子、陽電子、陽子)、陽子(水素原子核)、重陽子(、重水素原子核)、アルファ粒子、重イオンなどが含まれます。中性子は電荷がゼロですが、間接的に電離イオン化を引き起こすので、電離イオン化粒子の一つと考えられています。

イオン化放射線量の精確な測定技術は1928~1929年に確立しました。線量の測定に規準規定が設けられ、照射線量の国際的な単位として「レントゲン(R)」が用いられるようになったのです。  以後、イオン化放射線の影響に関する多くの研究データが蓄積されました。放射線の種類が異なると、同じ線量に被曝した生物の間で、量的に、時には質的にも、異なる影響が確認されました。さらにその影響の差が、空間内や生物内における、エネルギーの分布の差によるものであることも解明されました。

測定に用いる単位について

異なる種類のイオン化放射線が及ぼす生物学的な影響量を比較するために、生物学的効果比(RBE)という概念が設けられました。これは、同じ吸収線量でも放射線の種類やエネルギー生物により異なるレベルの影響が現われるという相対的な考え方です。  国際放射線防護委員会(ICRP)の定義では、放射線量を測定する際に用いる基本的な単位は吸収線量とされています。吸収した放射線のエネルギー量はジュール(J)で表わされ、単位質量にはキログラムを用います。そして、物質1キログラムあたりが放射線から1ジュールのエネルギーを受け取った場合の吸収した熱量を吸収線量がとして表わしたのが、1グレイ(Gy)と定義されいました。  等価線量と実効線量という概念もあります。放射線は、種類によって生物に与える影響が異なります。個々の放射線の種類に応じて算出した係数を放射線荷重係数(Wr)と呼びます。等価線量を計算する場合には、生物の組織や器官のによって吸収された線量にを平均化し、それに放射線荷重係数を掛けます。等価線量はジュール/キログラムで表され、シーベルト(Sv)という単位で表されます。  等価線量と放射線が実際に与える影響の関係は、被曝する組織や器官によって異なるとされています。この違いを考慮して算出されるのが組織荷重係数(Wt)です。そして、等価線量に組織荷重係数を乗じたものが実効線量です。実効線量もジュール/キログラムとシーベルトで表されます。等価線量が個々の組織と器官によって吸収された放射線量を計算するのに対して、実効線量は個体全体で吸収した線量を計算するものです。  放射性物質からの放射線被曝量を測定するにあたっては、「放射能」(A)〔放射線のアクティビティ。放射線の強さを表す。訳者〕という概念の理解が必要になりが用いられ、放射能の強さの測定単位にはベクレル(Bq)を使用します。ベクレルは、1秒間一定の時間内に崩壊する原子核の平均数を示します。  現代社会では、世界中で多くの人々がイオン化放射線に接触しており、今後その人口は増加を続けるでしょう。

自然放射線について

自然環境放射線について少し触れておきましょう。地球の誕生と同時に、自然の放射性核種線は地球誕生の時から地殻に含まれていました宇宙空間から地球に到達しました。ですから、地球が誕生して以降、自然界の放射性核種から生じる放射線と宇宙線によって構成される環境放射線(バックグラウンド放射線)は、常に存在してきたのです。  したがって、生物の起源と人間を含む生物種の進化は、電磁波の大海原の中で起きたと考えられます。  地球上に存在する全ての生物は、自然界の電離イオン化放射線と非電離イオン化放射線の影響を受けています。自然環境放射線の線量は地理的な条件によって異なりますが、地球上で人間が受ける被曝線量の平均は2.4ミリシーベルト(年間)とされています。〔地球上には、地理的な条件によって一般人の年間被曝線量が2.4ミリシーベルトの2~3倍に至る地域も多々あります。訳者〕この値の4分の3までは、ラドンによる被曝です。屋内(建物の地下、1階、2階など)においては、土壌や建材等に含まれるラドンやガスの燃焼等によって放出されるラドンが、被曝の主な源となります。  自然放射線は地表水や地下水に含まれている場合もあります。  自然体内に蓄積される放射線による被曝の15%までは、放射性カリウムが占めています。カリウムは多くの植物性・動物性食品に含まれています。動物性の食品には、極少量ですが、ラジウム(226Ra)、ポロニウム(210Po)、鉛(210Pb)も含まれています。人体中のは本来備わっている放射能性(これを「人体の放射能」と呼びます)は、ゆえに、カリウム、炭素、水素などといったを主とする、生物圏に存在する放射性核種の取り込み生物圏に存在する全ての放射性核種の受け入れにによって組成されています。  宇宙空間と太陽の表面層もイオン化放射線の源です。

人類の経済活動は、自然界に存在するイオン化放射線の源に加えて、更に人工的な線源を創りだしました。石炭、石油、リン酸塩などの天然原料を処理する際には、作業員によって放射線の「職業的な」被曝蓄積が生じます。また、石炭の使用にあたっては、石炭を掘り起こす作業員だけでなく、石炭を利用する全ての人が放射線に被曝します。  イオン化放射線は、医学の分野でも治療や診察に用いられます。  核実験や原子力発電所における事故の影響も考慮しなければなりません。

イオン化放射線とDNA

イオン化放射線による生物影響学的効果の体系的な研究は、X線の発見によって始まりました。1930年代後半までには、X線の影響による変異原性〔DNAや染色体が傷ついて、突然変異が起きる現象。訳者〕が確認され、その研究結果が発表されました。現在では、吸収線量の生物医学的効果は、

1.線量値 2.放射線の種類 3.放射線量の時間分布と体内分布 4.被曝(照射)時間

によって左右されるとみなされています。

当初は、観察された放射線の効果を説明するために、標的説が用いられました。標的説は、放射線は細胞に直接的な影響を及ぼす、という仮定に基づいていました。一定量の放射線が、傷つきやすい(放射線感受性の高い)細胞に偶然衝突し、遺伝子の変異を引き起こすイオン化作用を及ぼすと考えられていたのです。DNAの役割が明らかになるまでは、遺伝子は高分子であると考えられていました。  その後、放射線が細胞へ衝突しても、ただちに染色体の切断を促すものではないことが分かりました。被曝の初期には、染色体の局部において潜在的な損傷が生じ、一定期間を経た後に、その一部に遺伝子の変異や染色体の損傷が起きることが解明されたのです。  一方、20世紀後半には、放射線のもたらす間接的な影響が明らかになっていきました。ヒドロキシラジカル水酸基(酸化力が強い活性酸素)と水和電子という、水の放射線分解生成物によってDNAが損傷を受けることが判明しました。、これに加え、フリーラジカル(遊離基)型の酸化連鎖反応が起こり、その生成物が染色体と細胞膜に損傷を与えることも分かりました。〔フリーラジカルは不安定な原子や分子で、他の分子から電子を奪うことによって安定しようとします。訳者〕  また、人体は、人体が受ける全ての悪影響に対して、不特定な適応反応(これを非特異的適応反応といいます)を起こします。人体はこのようにして環境の変化に適応しようとします。すなわち、細胞の損傷は、イオン化放射線や他の物質によるダメージ(損傷)だけでなく、そのダメージ(損傷)を修復復元する過程によっても起こるのです。適応反応には様々な性質のものがありますが、低線量のイオン化放射線による影響下では、放射線によるDNAへの一次的なダメージを排除する適応反応の方が、受けたダメージの増幅を抑制する適応反応よりも優位になると考えられています。

親から子へ同じ遺伝子(遺伝的連続性)が受け継がれるために、生物はその進化の過程で突然変異を抑制する(抗変異原性)システムを築きあげてきました。このシステムは二種類に分かれています。

1.細胞の酵素系。 例:カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼなど。  先ほどフリーラジカルについて記述しましたが、フリーラジカルは被曝などの影響によって生じます。酵素系はフリーラジカルが与えるダメージから遺伝子の構造を保護します。 2.DNA修復系。ダメージを修復するシステム。  DNAの修復には、約200種類の遺伝子細胞が関与していると考えられています。そして最終的には、個体レベルで、インターフェロンやセルロプラスミンなどによって遺伝子の構造が保護されます。

以上のことから分かるように、体内の抗変異原性システムは、ダメージを排除するための十分な基盤を持っています。しかし、このシステムも、全てのダメージを修復できるわけではありません。非回復性損傷と呼ばれる修復不可能なダメージが存在するのです。また、遺伝子は誤って修復されることもあります。しかし、これに対して生物の免疫システムは、修復されなかった細胞の大半を体外へ排出する機能も持っています。

ここで、次のことを頭に入れておく必要があります。抗変異原性システムは、長期に及ぶ人工的な圧力には対抗できず、次第に機能しなくなります。人工的な圧力には、もちろん人工放射線も含まれます。抗変異原性システムが機能しなくなると、変異が加速します。  人体の抗変異原性システムの中で、甲状腺は重要な役割を担っています。甲状腺ホルモンが細胞や組織にエネルギーを供給する事はよく知られています。甲状腺ホルモンは、DNAの修復や生殖活動において重要な役目を担っています。また、発がんを抑制する抗発がん作用にとっても、必要不可欠な要素なのです。甲状腺ホルモンは、イオン化放射線が染色体に損傷を与えようとする時に効力を発揮し、傷ついた染色体を内包する細胞の数を減少させる働きを見せます。外部からの影響(外部因子)から低強度ないしは中強度の影響を受けると、甲状腺ホルモンの機能は通常の1,.5~2.0倍に増加します。このようにして人体は外部からの影響に非特異的適応反応を示し、甲状腺はその中核を担う器官なのです。

一方、過去数十年来の研究によって次のようなことも明らかになりつつあります。それは、生物は一度イオン化放射線による低線量に被曝すると、再度被曝した際には、遺伝子の損傷が抑制され、哺乳類に関しては、生存能力を持った細胞の数が増加するという事実です。  適応反応、細胞の増殖、新陳代謝への刺激などは、外部因子からの影響に対する非特異的適応反応の表れだと考えられています。人体の免疫システムは、全身被曝の場合には0.,2~0.,3グレイまで、局部被曝の場合には1~2グレイまで適応反応を示します。

現在では、放射線による人体への医学的影響は、2つのカテゴリーに分けるべきだと考えられています。

被曝線量にしきい値を設け、確率論に基づかない考え方(確定的影響)。これをしきい値モデルと呼びます。  しきい値モデルが適応される疾患には、放射線熱傷、放射線障害、放射線白内障、胎内で被曝した子供が持って生まれる先天性障害(奇形など)などが含まれます。被曝線量と人体が受ける影響の重篤さ大きさは、直接的な対応関係にあると考えます。

確率論的な考え方(確率的影響)。  被曝線量のしきい値を設けずに、どんなに低い線量も、腫瘍の発生や遺伝子の疾患などを引き起こす可能性があると考えます。確率的影響論によれば、被曝線量が対応対欧関係にあるのは、人体が受ける影響の「重篤さ強さ」ではなく、影響を被る「頻度」であるとみなします

生物には、抗変異原性や非特異的適応反応など、自らの生命活動を支え、環境から受ける悪影響へ適応するための、基本的なメカニズムが備わっています。よって、個々の生物には各々のしきい値が存在すると考えることができます。また、そのしきい値の差に応じて、被曝から受ける影響に差が生じると考えるべきです。しきい値の高さは、個々の生物が持つ遺伝子の、悪影響に対する感受性や、悪影響を受ける時点での体内の機能状態などによって異なります。後者の例として、DNAの修復を行う酵素の状態や、非特異性の防護因子、免疫システムなどが挙げられますし、その他にも、現在は未だ明らかになっていない要因が多々あるでしょう。  人々を集団としてとらえた場合、集団の中には、遺伝性の要因、ないしは後天的な要因によって、外的なダメージに対する抵抗力が低く、放射線に対する高い感受性を持っている人が必ずいます。ですから、異なる感受性を持つ人々を「集団」レベルで考える場合には、放射線の確率的影響にはしきい値を設けないのが妥当だと考えられます。

しかし、被曝線量のしきい値は、低線量率での恒常的な強度の低線量被曝について考える際には重要な意味を持ちます。人体の健康に関して、以前は0.2シーベルト以下の被曝は、人間の活動に重大な影響を及ぼさないと考えられていました。しかし過去10年間で、低線量被曝のしきい値は0.1シーベルト、ないしはそれ未満に引き下げて考えられるようになりつつあります。  今日では、年間0.1シーベルト以下の等価線量を「低線量」と捉えています。また、生涯で吸収する等価線量は1シーベルトを超えてはならないとされています。  高線量の放射線被曝は、核兵器を用いた戦争時や、原子力発電所および原子力再処理工場などで起きた事故の初期にのみ見受けられます。他の状況下では、一般市民や専門の作業員が被曝するのは、低線量被曝であるということを頭に入れておく必要があります。

生物が受ける低線量被曝を考えるとき、現在では直線しきい値なしモデルという概念が用いられます。直線しきい値なしモデルでは、高線量被曝が及ぼす影響のデータを基にして、低線量被曝の影響(外挿データ)を推定し、いかなる線量でも、吸収線量の増加はガンと先天性疾患の発症率を高めると考えます。一方、直線しきい値なしモデルの問題は、細胞と組織、器官(臓器)、そして最終的には個体(人体)レベルで生じる適応反応と補正のプロセスが考慮されない点です。なぜ問題かというと、正常な状態への回復を担うのは修復機能であり、ダメージの促進は、ダメージの規模と修復力の比率によって決定づけられるからです。  直線しきい値なしモデルには以上のような問題がありますが、このモデルの使用は放射線の晩発性遠隔効果(被曝後に一定期間を経てから表れる症状)による発症率の増加を認めるので、「人道的」だとされています。

低線量被曝が細胞に与える影響の分子生物学的な研究は、生物の修復システムが正常に機能することによって、恒常的な被曝によるダメージは軽減できるということを、私たちに教えてくれます。低線量のイオン化放射線が与える影響の基礎となるのは、細胞膜と細胞核内にあるフリーラジカルによって引き起こされる適応反応です。しかし放射線による長期的な影響は、最終的には神経、内分泌、免疫、ならびに造血の各システムを緊張させ、衰弱へと導きかねません。また、研究の結果、これら放射線によって引き起こされる症状に対して人体が示す反応は、慢性的なストレスによって引き起こされる様々な問題に対して、人体が示す反応と同様であることが解明されています。  視床下部-下垂体-副腎系の衰弱は適応疾患を引き起こす恐れがあります。そして、適応疾患はチェルノブイリ事故の被災者に見られる内分泌疾患のかなりの割合を占めています。

放射線生物学的な影響の非特異性と、その影響が及ぶ生物の多様性(範囲の広さ)を総合的に考えると、数々の非特異性の影響が持つ共通の特徴が見えてきます。非特異性の影響は、生命の活動を支える生物の基本的な機能(メカニズム)と、変化する生活環境にたいして生物が示す適応能力の多様な可能性の表れなのです。生物が示す反応については“アルント=シュルツの法則”を応用できます。つまり、弱い刺激は生物が持つ潜在的な能力を励起し、生物が受けた影響に対する適応能力を呼び起こします。中程度の刺激は適応反応を引き起こす代わりに、適応反応を抑圧します。そして強い刺激は個体を破壊します。

放射線被曝の影響

低線量に被曝した人々が最も心配することは何でしょう?ガンの発症、障害児の誕生、不妊… 現在では、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)による一連のレポートが、放射線被曝者に見られる悪性腫瘍の発生率に関する、疫学的に正しい研究結果をまとめています。(UNSCEARが発がんリスクの評価の基礎とし、被曝衛生管理のための基準値設定に用いているのは、広島・長崎の被爆者の発病率および死亡率の研究で、広島・長崎の被爆者のデータは高線量被曝の影響しか扱っていないという問題があります。また、被曝線量とリスクの評価には直線しきい値なしモデルが用いられるという点も考慮しなければなりません。これらの問題を理解していれば、UNSCEARの研究結果は有益な情報を提供してくれます。)  統計学的に明瞭な腫瘍の発生率の増加が、いくつかの例外と共に発表されています。白血病と放射線被曝の関係も明らかにされています。また、広島・長崎の高線量被曝の影響のデータを基にして、低線量率被曝の場合の発ガンリスク影響のデータが算出されています。その際にれによって、低線量率にともなう発がんリスクの指標は3分の1以下に引き下げられました。(最近の推定では2分の1ですが。)  UNSCEARは独自のデータを基に、ガンマ線およびX線によって1シーベルトの高線量を被曝した場合の、異なる年齢層の男女における腫瘍による死亡率を、男性:9%、女性:13%と発表しています。(ガンマ線やX線は、低いRBE値の放射線、すなわち生物に与える影響が小さい低い放射線だと考えられています。)死亡率の推定値には「不確かさ」があり指標は確立しておらず、最高値をとれば2倍に、最低値なら2分の1に評価され、ゆれが認められるように不確実です指標の不確実性と同様に、恒常的な恒常的な被曝のリスクも2分の1に減少する可能性があります。すなわち、低線量被曝被の影響を引き起こす可能性がある線量の恒常的な低線量率の放射線の影響下では、発がんのリスクは低くなるというのです。  一方、ガンの発症率は、ガンによる死亡率の2倍であると考えられ、また、幼児期における被曝による死亡率は、異年齢層の死亡率に比べて2倍であるとされています。  UNSCEARは、1シーベルトの高線量を被曝した男女に一生涯で発生し得る白血病の発症率(男女共通)は1%であると発表しており、この値の不確かさ実性の範囲もまた、2倍ないしは2分の1であるとしています。

被曝が人体の生殖機能に与える確率的な影響に関しては、外的ないし内的な因子によって遺伝子に重大なダメージを受けた胎芽(人間の受精後8週間未満の生体)は、自然淘汰の作用として、自然流産や不妊によって排除されることが確認されています。自然淘汰で排除されなかった場合、被曝の影響は、いくつかのタイプの先天的障害や軽度の変異として表れる可能性があります。  チェルノブイリ事故の処理に携わった作業員達における腫瘍性疾患のリスクは高く、またリスクの高低と吸収線量との因果関係は周知の事実です。さらに私達は放射性ヨウ素に被曝した子供たちと甲状腺がんの明白な関係をも知っています。一方、放射能汚染地域に住む住民の疫学的な調査は、被曝によって生じる生殖機能の異常を示す、明白な証拠を提供するには至りませんでした。なぜなら、これらの調査にはいくつかの欠点があり、科学的根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine(EBM))の法則に反する面があったからです。また、慢性的なストレスの影響と恒常恒常的な低線量被曝の影響は、ほとんど区別できないという問題もありました。

今日、国際社会は、集団(民族)の性質の差異に関係する、放射線リスクの評価の多様性を認めています。性質の異なる集団においては、放射線の影響も異なる形で現れるだろうと考えられています。したがって、生活習慣や食生活を考慮した上で、日本人と、汚染がひどかったウクライナのポレーシア地方の住民とを比べると、同等線量の放射線の影響下では、日本人に現れる健康被害の方が少ないだろうと考えられます。

UNSCEAR の専門家は放射線汚染地域の住民を対象にして、放射線の影響と異常妊娠の関係を研究しました。彼等の疫学的な研究結果によれば、放射線の影響が死産、早産、先天性異常の発症率を増加させるという、個別的な調査結果によって明らかにされた事実は認められませんでした。チェルノブイリ事故によって人々に蓄積された被曝線量を考えると、UNSCEARの結論は論理的と言えるかも知れません。  ウクライナ住民がこれまでに受けたに蓄積された被曝線量(当局が公表する被曝線量が実際の線量よりも低かったとしても)は次の事を明らかにしています。汚染地域の住民に対する健康被害に関して、放射線の影響はそれほど重大なものではないし、ましてや致命的ではないはずです。その一方で、民衆による健康被害の認識、特に生殖機能の被害に関する認識は、不適切な程に強いのです。医者の間でさえ、低線量被曝による極度の危険性に関して、科学的根拠に基づかない認識が流布しています。このような認識は、政府にとって、そして一定の人々と医療従事者にとって、有益なのかも知れません。彼等は、生活環境に蔓延し人々の健康を害している放射線以外の因子に対して責任があります。しかし責任者は、低線量被曝が与えるリスクを過剰に評価することによって、自らの責任を軽減しているのです。全ての病理は放射線に起因する、と考えることは非常に都合が良いのでしょう。何故なら、このような認識は、「どうせいつかは放射線の影響で発病するのだから、生活習慣を変える必要もないし、悪習を続けてもいい」というような姿勢の原因となり得るからです。

結論  1.イオン化放射線は、環境に存在し、実質的な健康被害を与え得る諸要因の一つである。  ある程度一定以上に産業人工的な文明が発達した国では、人々は、自然界に起因する影響よりも、イオン化放射線による影響に対して、強い反応を示します。低線量被曝は、体内で非特異性適応反応を引き起こします。放射線生物学的な影響の非特異性と、その影響が及ぶ生物の多様性(範囲の広さ)を総合的に考えると、そこには数々の非特異性の影響が持つ共通の特徴が見えてきます。非特異性の影響は、生命の活動を支える生物の基本的な機能(メカニズム)と、変化する生活環境にたいして生物が示す適応能力の多様な可能性の表れなのです。

2.チェルノブイリ事故の影響を受けた汚染地域における健康被害を認める論者達は(私たちの研究もこれに関連しています)、汚染地域の住民が受ける影響として、恒常的な放射線被曝、慢性的なストレス、不適切な食生活、および貧困を同定しています。当地域の住民の大半は、貧しい生活を送っています。  しかし、一般人にとっては、「どのような原因によって発病したか」よりも「健康でいること」の方が大切です。そして、健康でいるためには、どの様な姿勢で生活を営むべきかを知らなければなりません。

4.イオン化放射線が及ぼす健康被害を予防するための対策方針

第3章で取り上げた事項を考慮すると、恒常的な低線量被曝の影響に対する予防策は、いくつかのカテゴリーに分類する必要があります。

A  低線量被曝に対して、人体は非特異性適応反応を示します。それならば、バランスの取れた食事と適応力促進剤の摂取によって、放射線への抵抗性を高めれば良いのです。適応力促進剤は、できれば天然由来のものが好ましいでしょう。  現在では、健康体を生理学的に維持し、健康体の生理学的な需要に見合った栄養とエネルギーを供給する食事が、バランスの取れた食事であるとされています。健康的な食事とは、摂取する食物と身体にかかる負荷の最適な比率によって成立する、健康的なライフスタイルの一部です。  1日分の食料は、次の各食品によって構成されるべきです。

炭水化物(野菜、果物、全粒粉のパンや玄米といった全粒穀物など): 45~65%、  たんぱく質(魚、鶏肉など脂肪分の少ない肉、卵、豆類、ナッツ類): 10~35%、  脂肪分(これは、魚やオリーブオイル、ナッツ類等に含まれる不飽和脂肪酸でなければいけません):20~35%。(穀物たんぱく質に含まれるグルテンを受け付けない体質の人々がいることを忘れてはなりません。彼等はこのようなグルテンの摂取によってセリアック病を患います。)  全乳よりも、低脂肪の発酵乳製品を摂るべきです。乳製品は、たんぱく質、カルシウム、ビタミンD、カリウムの豊かな摂取源です。  水素加工した植物性油(硬化油)を使用した菓子類、マーガリン、ファストスプレッド、インスタント食品や、成型肉の摂取を控えるべきです。甘い炭酸飲料も多量に摂取するべきではありません。

栄養状態を最も単純に計算できる方法として、ボディマス指数が挙げられます。ボディマス指数は体重と身長の関係から算出され、その計算方法は、

BMI=体重(kg) ÷ 身長㎡

です。例えば、体重60kgで身長1.65mの人の場合は、

BMI=60÷(1.65×1.65)≒22.04

となります。成人におけるBMI指数は、18.5~24.9が普通体重とされ、  14.5は低体重、  25.0~29.9は高体重、  30.0~34.9は肥満1度、  35.0~39.9は肥満2度、  40以上は病的肥満とされています。 〔日本では、18.5~24.9が普通体重とされ、18.5未満は低体重、25.0~29.9は肥満1度、30.0~34.9は肥満1度、35.0~39.9は肥満1度、40以上は肥満1度とされています。指数の解釈は国によって異なります。訳者〕

現在私たちが得ている知識によれば、放射能汚染地域における栄養管理では、次の事項を考慮しなければいけません。

・食品を通じた放射性核種の摂取量を軽減すること ・放射性核種が消化管へ吸着することを抑制し、また体外への排出を加速させること ・エネルギーと生命力の維持に不可欠な食品を、バランス良く摂取すること、 日々の食生活を考えるべき

食品を通じた放射性核種の摂取を予防するためには、

・果物と野菜を徹底的に洗ってください  ・果物と野菜に含まれる放射性核種の40%までは、表層部に集中的に付着しているので、よく洗う必要があります。  ・調理において、一定のルールを厳守する必要があります。放射線に汚染された状況下では、「煮る・ゆでる」調理法を優先的に用いるべきです。放射性核種の大半はゆで汁の中に溶け出します。ですから、食品を10分間ゆでてから、ゆで汁を捨て、その後に再度加熱すると効果的です。 きのこ類は、この10分間のゆでこぼしを二度行うと効果的です。 放射線によって汚染された肉・魚類は、調理する前に1.5~2.0時間、水に浸す(浸水させる)ことが勧められます。

放射性核種が消化管へ吸着することを抑制し、また体外へ排除することを加速させるには、特別な食事方法や、エンテロソルベントと呼ばれる、腸を洗浄する人工的な吸着剤によって可能です。    ・食生活にたんぱく質が不足すると、放射性セシウムの蓄積が進み、逆にたんぱく質を多く摂るとセシウムの排出が加速します。  ・穀類、ジャガイモ、アプリコット等に含まれるカリウムの摂取(一日に5グラム以上)は、放射性セシウムの腸への吸着を減少させます。  ・カルシウムの十分な摂取は(一日に800mgまで)は放射性ストロンチウムの吸収を減少させます。更年期に入りつつある女性には、骨粗しょう症予防のために一日あたり約1200mgのカルシウムの摂取が勧められています。  ・食物繊維、野菜や果物のペクチン、昆布から抽出されたアルギン酸塩の摂取は、腸の蠕動(ぜんどう)運動を高めるだけでなく、放射性核種と金属イオンの結合を促して複合体を形成します。その複合体は体内では吸収されず、体外へ排出されます。食物繊維の摂取量は、一日あたり女性は20~25g、男性は40gまでが目安です。一般的には、食物の熱量1000キロカロリーに対して、食物繊維の摂取量は14gまでとされています。  日々の食生活では一日あたり2~4gのペクチンを含んでいなければなりません。  人工的なエンテロソルベントは、短期間だけ服用するべきです。

放射線に被曝した人には以下の事が勧められています。

・たんぱく質を豊富に摂取すること。特に、スルフヒドリル基(SH基)を含むシステインやメチオニンなどのアミノ酸が大切です。これらのアミノ酸は特に乳製品に多く含まれており、被曝時に発生するフリーラジカルに反作用を及ぼします。 ・イオン化放射線の影響に対抗するためには、(体内組織の硬化を抑制する)反硬化作用のある不飽和植物性油を多く摂取すると効果的です。動物性脂肪は、食生活における油の摂取量全体の10%を超えてはいけません。 ・ペクチンや食物繊維といった、非でんぷん性多糖類を毎日の食生活に取り入れる。摂取量は上記の通りです。  ・ビタミンA,B,C,E,Pの摂取量を増加させる。毎日の摂取量を30~40%にまで高めましょう。 ・体内を十分な量のヨウ素で満たす。一日あたり150~200μgが勧められています。ヨウ素が欠如すると甲状腺の活動がダメージを受けます。特に妊娠中の女性はヨウ素を多めに摂取する必要があります。

・次の物質の摂取をコントロールする必要があります。 銅(2~3mg/日) 亜鉛(15mgまで/日まで) マンガン(5mg) コバルト(100μgまで/日まで) セレン(100μgまで/日まで)

B  恒常的な低線量被曝による健康被害を、人々が正しく評価していないという事実を考慮しなければなりません。正しく評価できない原因として、以下の各要素が挙げられます。

・十分でない保健教育 ・過去の経験に基づいた、将来起こり得る原子力事故への恐怖 ・メディアが提供する、誇張された情報 等

病気理の原因を人々がどのように捉えているかについて、私たちが行った研究のデータは、次の事を明らかにしています。(病気理の原因の順位付け(ランキング)を実施)

・汚染地域に居住し、先天性障害を持った子供を出産した母親達は、子供の先天性障害の最も重大な要因(第1位)を、放射能による影響だと考えていました。  ・一方、同じ汚染地域に居住し、健康児を出産した母親達は、子供の先天性障害の原因として、放射能による影響を第3位に順位づけました。  ・しかし、彼女達自身の人生を脅かす要因としては、全ての母親が放射能による影響を第1位に順位付けました。

放射性物質の完全な除染は不可能であるという事実や、現実に起きる健康被害などに直面して、自分の置かれた状況を絶望視すると、被曝者の中には慢性的なストレスが発生します。そして慢性的なストレスは、既存の病気を悪化させ、さらに新たな病気を引き起こす可能性があるのです。

今日私たちが得ている研究データによると、慢性的なストレスは、発がんと奇形発生に代表される、突然変異を誘発する重大な要因だとされています。これらの病理は、腫瘍疾患や先天性障害児の誕生を促進させる可能性を秘めています。

慢性的なストレスを持つ患者には、ストレスによる悪影響を予防する対策を講じなければなりません。予防策にはいくつかの異なる方向性があります。

食生活の改善。恒常的な被曝と同様に、ストレスの発生は体内でフリーラジカル性の酸化を促進・強化させます。酸化による影響は、抗酸化物質を含む食品や天然サプリメントの摂取によって平均化(中和)できます。このような栄養素の摂取は、恒常的な被曝に対しても効果的です。

今日、グローバル化の発展に伴う情報の流布によって、人々の精神衛生にまつわる問題が増加している事実も見逃してはなりません。私たちは、この問題に対する解決策をも講じる必要があります。よって、ストレスによる悪影響を予防するための二つ目の方策は、

2.精神衛生の強化。精神衛生の強化には、様々な分野の研究を統合して(学際的に)取り組まなければなりません。そして何よりも大切なのは、精神衛生を維持し、健全な生活を送るための、明確な人生設計と生活環境を整えることです。

3.ストレスの要因に対する、的確で積極的な反作用。瞑想(メディテーション)の要素を含む心理セラピーは、人間の個人的な諸問題や社会の変化による影響を支配するための、具体的な方法論を有しています。このようなセラピーは、精神衛生の破壊を抑止する力を持っています。患者が自己認識のシステムと治癒のための環境を自らの力で確立できるか否は、既存の病気の状態をも大きく左右します。患者は自己認識のシステムの中で、病気への適応と治癒を促すための目標を定める必要があります。自己認識システムの確立にあたっては、心理学者、特に医療心理学の専門家が重要な役割を担います。

C  放射線の影響下にある地域の住民を放射線から防護するためには、被曝線量を軽減しなければいけません。また、妊娠を希望する女性においては、内部被曝への直接的な対策以外の処置をも考慮する必要があります。特に、リスクを軽減する間接的な対策に注目してみましょう。  私達の調査結果によると、放射能汚染地域の影響下では、実際に自然流産が起きる確立が高くなります(通常時の1.2~1.4倍)。しかし、同じ放射能汚染の影響下でも喫煙する女性の場合にその確率は最大3.8倍に増加し、慢性的な伝染病患者の場合は最大で4.6倍にも跳ね上がります。ですから、子供をもうけようと考える人々は、喫煙や、高い度数のアルコール飲料の過度の摂取などの悪習を控える必要があります。また、慢性中等度の伝染病(特に性交によって伝染されるもの)や非伝染性疾患を患う親達にも衛生措置を取らなければなりません。その際、妊娠中における薬物の摂取は、医師の指導のもとに行う必要があります。  ストレスと過労を回避しなければいけません。  特に妊娠の2~3ヵ月前から妊娠期間中にかけては、食生活に特別の注意を払うべきです。

放射線による影響の発生と甲状腺ホルモンの関係は上記した通りです。がん患者には、トリヨードサイロニンと呼ばれる甲状腺ホルモンの内に組織内での不足が見られます。甲状腺疾患の患者は、体内の他の部位で悪性腫瘍が発生する確率が、通常の14倍に増加します。母親の甲状腺疾患は、生まれてくる子供の先天性障害を引き起こす重大な要因の一つです。現代社会では、甲状腺疾患が広く蔓延している事実も頭に入れておくべきです。  甲状腺ホルモンの不均衡を細胞遺伝学的に分析すると、放射能の影響下で甲状腺ホルモンの活動を正常化する治療は、同時にイオン化放射線の影響の予防にもつながることが分かります。被曝者の診察・治療にあたっては、内分泌学的な調査が不可欠です。その際、甲状腺の調査が最重視されるべきです。

結論

予防策を講じるにあたっては、食品を通じた抗酸化物質の摂取によって、体内の放射線抵抗性を高めることが重要です。 ストレスの予防は。放射能事故の影響下以外でも大切なことです。そのためには、

・食生活の改善 ・精神衛生を維持し、健全な生活を送るための、明確な人生設計と生活環境の確立 ・ストレスをもたらすの要因に対する精神的に適切な対応する反作用の形成

が必要です。

甲状腺は、生殖、発がん、染色体の保護において非常に重要な役割を担っています。そして、汚染地域で人々が放射性ヨウ素の影響を受けた事を考慮すると、甲状腺機能の正常化こそが最優先されるべきです。内分泌の専門家による診察をお勧めします。健康な方でも、少なくとも2年に1度。既住症(過去に病気を患ったことがある)をお持ちの方は少なくとも1年に1度診察を受けるべきです。 人々の健康は、個人の姿勢と、個人の社会的・医学的適応および回復を支える国家の体制によって決定づけられます。正しい教育、放射線被曝の問題に関する啓蒙、健康被害を防止する対策は、非常に重要です。そして、全人類に課されたこれらの課題は、我々の手によって解決できるものだと考えます。

訳者補遺  以上は『イオン化放射線と健康 いま誰もが知っておくべきこと』の翻訳です。以下に、オルガ・ティムチェンコ博士が摂取するように勧めている栄養素を含む食品の一覧と、食品100g中における栄養素の含有量を記します。なお、チェルノブイリ事故後のウクライナと福島第一原発事故後の日本では、放出された放射性物質の量も人々の被ばく線量も大幅に異なるので、ティムチェンコ博士が提案する栄養素の摂取量に関しても、その差を考慮する必要があります。持病をお持ちの方は、予め医師や栄養管理師などに相談されることをお勧めします。

カリウム 寺納豆:1000mg、ピスタチオ:970mg、アボカド:720mg 、糸引き納豆:660mg、やまといも:590mg、大豆(全粒、国産、ゆで):570mg、里芋(水煮):560mg、にら:510mg、

干物:まこんぶ(素干し):6100mg、ひじき:4400mg、

カルシウム パルメザンチーズ:1300mg、えんどう豆(塩豆):1300mg、ゴーダチーズ:680mg、さくらえび(ゆで):690mg、プロセスチーズ:630mg、しらす干し(半乾燥):520mg、うるめいわしの丸干し:570mg、まいわしの丸干し:440mg、オイルサーディン:350mg、がんもどき:270mg、厚揚げ:240mg、ケール:220mg、小松菜(ゆで):150mg、

干物:干しえび:7100mg、

食物繊維(不溶性、総量) ひよこ豆(フライ、味付):19.9g, 21.0g、干し柿:12.7g, 14.0g、ゆでインゲン豆:11.8g, 13.3g、ゆであずき:11.0g, 11.8g、ひよこ豆(ゆで):11.1g, 11.6g、おから:11.1g, 11.5g、エシャロット:2.3g, 11.4g、アーモンド:9.6g, 10.4g、寺納豆:6.0g, 7.6g、こしあん:6.5g, 6.8g、こんぶ(煮):6.8g、糸引き納豆:4.4g, 6.7g、ごぼう(ゆで):3.4g, 6.1g、アボガド:3.6g, 5.3g、

干物:きくらげ(乾):57,4g、ひじき(乾):43.3g、抹茶:31.9g, 38.5g、レンズ豆:16.0g,17.1g、きなこ(全粒):15.0g, 16.9g、

ペクチンを多く含む食材 りんご、オレンジ、アプリコット、にんじん、かんきつ類の皮、その他、グアバ、プラム、オクラやモロヘイヤにも多く含まれます。 ペクチンは大抵、果物や野菜の皮に多く含まれています。無農薬のかんきつ類を使った低糖度のマーマレードなどは、ペクチンを摂るのに良いでしょう。1個100gのりんごの場合、皮ごと2~3個食べると3~4gのペクチンが摂れます。アプリコットの場合は、果実300gで約3~3.5gのペクチンが摂れます。

スルフヒドリル基(SH基)を含むシステインやメチオニンなどの天然アミノ酸: システイン:チーズ、いわし、たまねぎ、芽キャベツ、ブロッコリー、柿、オート麦、卵、にんにく メチオニン:あさり、あじ、いか、かき、さけ、さば、しらす干し、キャベツ、グリーンピース、ごぼう、大豆、にんじん、チーズ、ピスタチオ、昆布、ひじき、もずく、わかめ

不飽和脂肪酸(一価不飽和脂肪酸) オリーブオイル:74.04mg、なたね油:60.09mg、ごま油:37.59mg、あんこうのきも:18.44mg、うなぎ(白焼き):11.95mg、さば(開き干し):10.01mg、うなぎ(かば焼き):9.85mg、にしん(開き干し):9.21mg、しめさば:8.56mg、身欠きにしん:8.33mg、

ビタミンA,B,C,E,P

A(レチノール当量):鶏のレバー:14000μg、豚のレバー13000μg、あんこうの肝83000μg、うなぎの肝4400μg、ほたるいか(ゆで):1900μg、うなぎ1500μg

B1:豚ひれ肉:1.22mg、豚もも肉:1.01mg、生ハム:0.90mg、うなぎ(かば焼き):0.75mg、たらこ(生):0.71mg、すじこ、いくら:0.42mg、鴨(生、皮なし):0.40、鯉(煮):0.37mg

B2:豚レバー:3,60mg、牛レバー:3.00mg、鶏レバー:1.80mg、鶏はつ(生):1.10mg、いかなご(生):0.81mg、うなぎ(肝):0.75mg、うなぎ(かば焼き):0.74mg、うずら卵(生):0.72mg、鴨(生、皮なし):0.69mg、さば(開き干し):0.59mg、糸引き納豆:0.56mg、

B6:にんにく:1.50mg、ピスタチオ(炒り、味付):1.22mg、みなみまぐろ(赤肉、生):1.08mg、バナナ(乾):1.04mg、びん長まぐろ(生):0.94mg、かつお(生):0.76mg、うるめいわし(丸干し):0.68mg、鶏(ひき肉、生):0.68mg

B12:しじみ(生):62.4mg、赤貝(生):59.2mg、すじこ:53.9mg、牛レバー:52.8mg、あさり(生):52.4mg、ほっき貝(生):47.5mg、鶏レバー:44.4mg、あんこうの肝(生):39.1mg

C:アセロラ:1700mg、グアバ:220mg、赤ピーマン(油いため):180mg、黄ピーマン(油いため):160mg、芽キャベツ(生):160mg、ブロッコリー(生):120mg、かぶ(葉、生):82mg、ケール(葉、生):81mg、からしな(塩漬):80mg、青ピーマン(油いため):79mg、からしめんたいこ:76mg、にがうり(ゴーヤ)(油いため):75mg、甘柿(生):70mg、キウイ(生):69mg、レッドキャベツ(生):68mg

D:あんこうの肝(生):110.0mg、うまづらはぎ(味付開き干し):69.0mg、しらす干し(半乾燥):61.0mg、身欠きにしん:50.0mg、まいわし(丸干し):50.0mg、すじこ:47.0mg、かわはぎ(生):43.0mg、きくらげ(ゆで):39.4mg、しろ鮭(焼き):39.4mg

E(αトコフェノール):せん茶:64.9mg、ひまわり油:38.7mg、アーモンド(乾):31.0mg、抹茶:28.1mg、あんこうの肝(生):13.8mg、すじこ:10.6mg、落花生(炒り):10.6mg、紅茶:9.8mg、オイルサ-ディン:8.2mg、たらこ(焼き):8.1mg、もろへいや(生):6.5mg、うなぎ(白焼き):5.3mg、つくし:4.9mg、

P:ビタミンPは日本では「ビタミン様物質」などと呼ばれており、「フラボノイド」や「ヘスペリジン」の名で知られています。ビタミンPにはビタミンCの作用を促進させる働きがあります。ピーマンやパプリカを熱してもビタミンCが破壊されにくいのは、ビタミンPを含んでいるからです。かんきつ類、ぶどう、さくらんぼ、ブルーベリー、いちご等の果実、ならびに緑茶はビタミンPの含有量が高い食品です。

ヨウ素 まこんぶ(素干し):240000μg、ひじき(干し):47000μg、あまのり(素干し):2800μg、わかめ(水もどし):1900μg、ところてん:240μg、あわび:180μg、おきなわもずく(塩ぬき):140μg、うずら卵(生):140μg、さざえ:97μg、生いもこんにゃく:93μg、牡蠣(なま):73μg、卵黄(生):50μg、

一般的に「日本人は海産物を多く食するからヨウ素の摂取量は不足していない」と言われています。しかし、海産物の中にもヨウ素の含有量が比較的少ないものがあります。以下にヨウ素が30μg/100g以下の魚介類(生の状態)の例を記載します:まぐろ類、あなご、ぶり、さんま、まさば、まあじ、かつお、まいわし、わかさぎ、めかじき、あゆ等

(ペクチン以外の含有量は日本政府文部科学省の食品成分データベースを参考にしています)

まだらやすけとうだらはヨウ素を豊富に含んでいますが、放射性物質が比較的蓄積しやすい魚類です。

(訳:家田堯)

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